中つ国楢山節孝
「フロドしゃんや、朝飯はまだかね?全く恥をかかせおって」
ガンダルフがホビット庄に現れた。
ガンダルフは年齢十万62歳。
毎年収穫祭に現れてはタダ飯を喰らう、謎の徘徊老人である。
「また来やがったか、きちがいじじい…」
フロド・バギンズはひそかに毒づいた。
バギンズ家は代々ホビット庄の老人係として老人介護を担当しており、つい先ごろ百十一才の老ホビット、ビルボ・バギンズを「裂け谷養老院」に送りこんだばかりだった。
「ガンダルフー、花火見せてー!」
通りすがりのガキホビットがよけなことを言った。
「では儂のお宝をお見せしよう恥をかかせおって」
ガンダルフが花火を百万発発射した。
花火が村中を飛びまわる。
ガキホビットは大喜びで手を叩く。
しばらくすると、取り入れ前の畑が燃え出す。
村は火の海と化した。
ガンダルフはますます疫病神として忌み嫌われた。
村議会は満場一致でガンダルフをモルドールの果て、滅びの山に姥捨てすることに決まった。
そのころオルサンク老人病院では、サルマンが演説していた。
「世界は変わった、ガンダルフ。新しい時代が始まろうとしている。人間の世じゃ。それは我らが支配せねばならぬ。我らはイスタリではないか?この脆弱な人間の体の内にはマイアの魂が宿っているのではないか?」
サルマンは花びんに話しかけていた。
看護婦のウルク=ハイ子は、無言で鎮静剤をサルマンに注射した。声もなく昏倒するサルマン。
踊る子馬亭ではちょっとした騒ぎだった。
ガンダルフがその日5回目の朝食を要求。すでに深夜。宿の親父が文句を言うなか、サムがガンダルフのおむつを交換し、ピピンが手足をベッドにしばりつけ、メリーがおかゆを食べさせた。ようやくガンダルフが寝入った。
そこへ黒い騎手(ブラックライダー)たちが強襲。宿の壁を爆薬で爆破。客室に突入する。驚きのフロド。
「なんだあんたらは!」
「我々は通りすがりの介護士です。この老人は要介護徘徊老人としてモルドール中に手配されているのです。」礼儀正しい黒い騎手。
フロドは嬉々としてガンダルフを黒い騎手たちに引き渡した。
翌日、一行は晴れ晴れとした気分で野原を散策していた。ボケじじいガンダルフをモルドールまで捨てに行く仕事から解放されたのである。フロドは村に帰る前に、裂け谷養老院のビルボ伯父を訪ねようと思った。
「ガンダルフよ、パランティアを見るのじゃ」
「おおなんと見事な金玉だ恥をかかせおって」
サルマンとガンダルフが病室で対峙している。
「ヴァラールは何故、儂をあちこちが痛むばかりのボケ老人の姿でこの地につかわしたのじゃろう恥をかかせおって」
「あいーあいーおみゅちゅぎゃでー」
サルマンのおむつが激しく濡れていた。高分子吸収体からあふれたおしっこがサルマンの足もとの床に広がっていく。
サルマンの叫びを聞きつけたウルク=ハイ子が鎮静剤の注射を持ってかけつける。
ガンダルフは窓を突き破って宙に身を投げた。
霧ふり山脈のふもと、裂け谷養老院。
美しい庭園に囲まれた養老院である。
「儂の指輪を返せー!」
ベッドにしばられたビルボ・バギンズが叫んでいた。
痴呆の症状は進行していた。あまり騒ぐようだと精神安定剤を投与することになる。その後は寝たきり老人へまっしぐらである。
「ヨメが朝飯をくれんのじゃああ恥をかかせおって」ガンダルフもいた。
エルロンドの会議が開かれた。
ガンダルフの徘徊を許すことは中つ国そのものの危機である!いかなる犠牲を払ってでも「滅びの山」に姥捨てしなければならないのだ!
野武士アラゴルン、ゴンドールのボロミア、エルフの王子レゴラス、はなれ山のドワーフ・ギムリがモルドールへ赴くことになった。
おむつ係サム、しばり係ピピン、おかゆ係メリー、主任介護士フロド。
9人の旅の仲間が集まった!
ガンダルフは意気揚々とモルドールへ旅立った。
自分を捨てに行く旅だと分かっていないのは言うまでもない。