翁の帰還

 アイゼンガルドは落ちた。
「やーいサルマンやーい恥をかかせおって」
 ガンダルフがはやしたてる。
 サルマンの介護をしている蛇の舌グリマは、パランティアをよっこいしょとかかえ上げるとガンダルフめがけて投げ落とした。
 脳天直撃
 ガンダルフは、ミナス・ティリス脳外科病院に入院した。魔法思惟逓透器屋武(シーティスキャン)でガンダルフの脳みそ断面図が撮られた。
「硬膜下にたまった出血で脳みそが通常の三分の一に圧迫されています。このままでは命にかかわります。」 じじいはよく硬膜下血腫になるのである。しかしガンダルフはすぐ病室を抜け出そうとする。普通は運動機能に異常が出るはずなのだが…九百回荒野をさまよったのは伊達じゃない。すぐ屈強な看護婦(ウルク=ハイ子)に取り押さえられた。
 即日手術。頭蓋骨にドリルで穴が開けられた。
「おあああああああああ恥をかかせおってもちろん麻酔なんか無い。 
 翌日。目覚めたガンダルフは部屋の片すみにピピンの姿を認めた。一晩中自分を見守っていたのかと感謝の気持ちがわきあがった。しかしよく見るとピピンは忘我の表情で怪しく腰をふっている。なんと驚いたことにピピンは下半身裸でパランティアにまたがっていたのである!!
「あ〜日本はいい国だなあ〜」
「ペレグリン・トゥック>何するだぁー!?」 
「あ〜ガンダルフ〜こうすると金玉がほどよく冷えて気持ちいいンだわ〜」
「馬鹿者!!お前はサウロンの魔力に捕らえられているのだ。どれ貸してみろ恥をかかせおって」
ガンダルフがローブの前をはだけてパランティアにまたがる。これぞ股(また)パランティアである。
「あ〜日本はいい国だなあ〜恥をかかせおって」「ガンダルフずるいずるゥい!!
「ふはははまるで高貴なエルフの姫君を犯しておるような気分じゃ恥をかかせおって」
「さようサウロンめもさぞかし肝を冷やしておりましょうぞ。」とピピンも金玉を押しつける。
 あほかおまへら。
 サウロンは怒り狂っていたと云う。 
 ミナス・ティリス脳外科病院にサウロンの軍勢が迫る。院長デネソールは鬱(うつ)病であった。
「デネソール様がんばって〜」
「うン。がんばって自殺〜」
 デネソールの手首はためらい傷だらけ。
 二言めには「ボロミアが生きておればのう…ゲホゲホ」とか言っていた。
 デネソールの次男ファラミアも「兄さンよりも僕が死ねばよかたんだ〜」とか言っていた。
 お前らいいかげんにしろ。
 しかし鬱の人に何を言っても無駄である。死のささやきを隣人として生きる身の上にとって、『前向きである』ということは、死ぬことに前向きであることに他ならないのである。
 
 『ミナス・モルグルを囲む岩山』
 滅びの山を目指すフロドとサム。
 ゴクリが道案内と称して二人の前を進む。
「この上にオークが待ち伏せしている。いとしいしと」『ゴクリ』が愛想よく云った。
 サムは伏勢より『ゴクリ』が不安だった。
〈こいつが信じられるか〉その思いが先に来た。
「わしとお主で行こう」
 咄嗟(とっさ)に云った。フロドにこの目もくらむような岸壁を登らすことは出来なかった。サムは手投げ弾を出来る限り多く身につけはじめた。
「わしも貰(もら)おういとしいしと。」
『ゴクリ』もかなりの数を身につけた。
『ゴクリ』が先に立つと登りだした。恐ろしい速さである。サムも楽々とこれに続いた。
「お主、俺を信じていないな」『ゴクリ』が最後の大岩にほとんど指だけでぶら下がりながら云った。指先の力だけで躰を引き上げてゆく。
「当たり前だ」サムは答えた。この大岩を自分一人で越えられるかどうか、自信がなかった。
 『ゴクリ』はやっと登り切ると綱を垂らした。
「信じて使って見るかね、いとしいしと」
 サムは迷った。だがこの岩を登らなくては、フロドは滅びの山へ行き着けない。綱を掴んだ。足をつっ張って登った。『ゴクリ』はがっしりと確保してくれた。忽ち崖の頂上についた。
「すまぬ」
「いいさいとしいしと」 
 云いながら指さした。オークが四五十人、崖下の道を見張るのが眼下に見えた。
 フロドは凄まじい爆発音を立て続けに聞いた。足もとが揺らぐほどの衝撃の中で、オークの追撃が潰(つい)えたことを知った。
 『死者の道』
「イシルドゥアとの約定を今こそ果たす時が来たのだ。死者たちの王よ」
《あBB朝ご飯はまだでしゅかBB》
 死者と云えどもボケ老人。イシルドゥアとの約定を果たそうにも神経痛ゆえ立てなかったり。
「山田さン朝ご飯はもう食べたでしょ」
 レゴラスの一言に死者の翁は怒り狂った。
《息子の嫁が飯を食わしてくれんのぢゃあ〜>
 死者たちが三人に襲いかかろうと詰め寄る。
「友はつねに行動をともにするものだぜ」
「ギムリ、私の後に隠れるなってば」
 アラゴルン少しもあわてず。
「こんなこともあろうかと先月一級王様免許を取っておいたのだ」
 魂を吸われた。
「ドワーフの魂はうまくないぞ〜」
「エルフの魂はうまくないぞ〜」
 魂を吸われた。
 なんか死者の軍勢が三人増えた。
《我らは永遠(とわ)に成仏を赦(ゆる)されないのじゃ〜》
 死者の翁のなげきがアラゴルンの胸を打った。
《みんなおらといっしょにはらいそさ逝くだ〜》
《逝こう》
《逝こう》
 そういうことになった。
 
 『アングマールの魔王』がペレンノール野のローハン軍を強襲。空には怪鳥、地に重戦車(オリファント)、屈強なオログ・ハイ子の介護。勇猛なローハンの騎士たちも安楽死しかないのだろうか?
《人間の男には我を倒すことは叶わん》
 アングマールの魔王の哄笑。
 セオデン王が打ち倒された。
 エオウィンが立ちはだかる。
「私は男ではない!!」
「男ではない貴様など女の穴同然じゃ喰らえ」 ガンダルフがアングマールの魔王の背後に現れた。
 なんと驚いたことにガンダルフの一物は隆々と天を衝いていた。これはガンダルフの底なしの剛胆さを示していた。
《ま、まてイスタリよ。気でも狂っウギャオ!!>》 アングマールの魔王は灰燼(かいじん)と化した。
 デネソールはファラミアの火葬を命じていた。
 ピピンが隠し持ったる金玉(パランティア)の一撃でデネソールを昏倒せしめた。
「お客さまの中にお医者さんはいませんか?
「儂は医者(無免許)だ恥をかかせおって」
 ファラミアは奇跡的に一命をとりとめた。
 意識を取り戻したデネソールが騒ぎ出した。
「燃えちゃえ〜みんな燃えちゃえ〜」
「そんなに燃やしたいなら滅びの山へ逝け」
「逝こう」
「逝こう」
そういうことになった。
 
 『滅びの山』
 フロドはあまりの旅のつらさに現実逃避のあげく痴呆症になりつつあった。サムが涙ぐむ。
「ミスターフロドはおらがどこまでも背負っていきますだよ」ああ、うるわしきホモ愛。
 ゴクリは無言で二人の後を歩む。
「うわぢゃあああああ〜〜〜〜〜〜 
 燃える男炎の執政デネソールが現れた。
 ミナス・ティリスから全力疾走。
「死ねえ!死ねえ!!」ガンダルフが飛蔭で来る。
《みんなおらといっしょにはらいそさ逝くだ〜》 死者の軍勢が凄まじい勢いで黒門から滅びの山まで驀進(ばくしん)してきた。ローハンの騎馬団も負けじと馬を跳ばす。追っているのか追われているのかわからない状態で半狂乱のオーク軍も疾走。
 滅びの山の火口にデネソールがダイブ。続々とオーク軍も身を投げた。死者の軍勢は溶岩に飛び込むと青白い輝きとなって天空へ昇天する。
「指輪をかやせ〜〜〜〜いとしいしと〜〜」
 なんと驚いたことにビルボ・バギンズが火口へ身を投げた。実はビルボは、フロドたちが『ひとつの指輪』を奪ったと思いこみ、ずっと後をつけていた。地の文に書かれていなかったが、モリアだろうがヘルム峡谷だろうが画面のすみにいたのである。ちなみに『ひとつの指輪』はビルボの首にかけた迷子札の中にあった。
 
 数年後、ホビット庄のお盆。
 精霊流しの小舟にフロドが乗っていた。若年性痴呆症となったフロドの介護をサムはあきらめたのである。古来より精霊流しは死者の魂を現世(うつしよ)より来世(ヴァリノール)へ流すしきたりである。フロドの小舟の横にガンダルフの乗った小舟が流れる。
 ガンダルフ満面の笑み。
「逝こう」
「逝こう」
 そういうことになった。       〈完〉
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