第38話「ソロモン攻略戦」

 ソロモン攻略戦開始。
連邦軍の制宙権確保とジオン本国制圧を目的とした「星一号作戦」が発動した。
 GM及びボールの大増産によって、モビルスーツの兵力比は、ほぼ互角。
さらに対ビーム拡散粒子の散布と奇想兵器「ソーラ・レイ」が宇宙要塞ソロモンのジオン軍を追いつめる。
 要塞司令官ドズル・ザビ中将は、ソロモンの放棄を決断。
自らモビルアーマー、ビグ・ザムに乗り込み連邦艦隊主力に特攻作戦を挑むつもりだった!

 ドズル・ザビは妾腹の子である。
ギレン、キシリア、ガルマの母は高慢ちきなイヤな女だと少年時代のドズルは思っていた。
 若いデギン・ザビは、ジオン共和国の実権を握るために財力を欲していた。
そしてギレンらの母は、コロニー財界要人の娘。
彼女は権力者の妻となることを欲していた。
 デギンは表向き公王として君臨したが、奥向きは夫人にキンタマ握られていたのだ。
 ドズルの母はデギン夫人の侍女だったと云う。
 ドズルの誕生は隠され、こっそりとサイド1にある母の実家で十歳まで育てられた。
デギン夫人は異常に嫉妬深かったのである。
 十歳の時、ドズルの母が死んだ。
ザビ家に引き取られ、ドズルのつらい少年時代が始まった。
デギン夫人はことごとにドズルにつらく当たった。
二言目には「めかけの子」となじった。
ドズルは少年時代から異相、怪力の持ち主であった。
これもデギン夫人の気に入らない。
「怪物」よばわりされたドズルもまた、夫人に反抗する。
 デギンは自分に似ているドズルを哀れに思い、かばおうとするが、デギン夫人は「公王の代わりはギレンでもつとまる」とまで言い放った。
「ふざけんじゃねぇや!ここは俺んちじゃねえ」
 十六歳のある日、デギン夫人をしたたかに投げ飛ばしたドズルはザビ家を飛び出す。
宇宙世紀0069年…ジオン共和国が成立した頃のことである。
 ドズルの放蕩無頼の日々。
コロニーの建設現場あたりに荒くれた労働者や破落戸(ごろつき)どもが集まり、ドヤを形成していた。
ここにドズルはもぐりこんだ。
ヤケクソになった彼は、腹が減ればメシやをおどし、遊ぶ金は奪い、すれちがった男の顔が気にくわないと言って殴り飛ばした。
 ドズルの顔面に残る傷はこのころ付けられたものである。
ある日、ドズルにカツ上げされた在所(ところ)のやくざ者たちが、彼を闇討ちした。
相手は二十人。
ドズルは一人。
やくざ者は全員重傷を負うはめに。
ドズルも全身三十カ所に匕首(どす)をボチこまれたが、二、三日寝込んだだけでケロッして一升飯を喰らっていたと云う。
 〈不死身のドズル〉の異名がついた。
 命知らずのドズルのまわりに自然と取り巻きが集まる。
コロニーからコロニーへと渡り歩き暴れ回った。
小惑星ジュノー(後のルナツー)や月面都市フォン・ブラウンにも足を伸ばした。彼にとってコロニー国家は庭であり、自由の天地だった。
 ザビ家は世間体を気にしてドズルの行状を表沙汰にならないようにしていた。
何度か小役人ふうの男がドズルをむかえに来たが、そのたびにこっぴどくタコ殴りにして追い返した。

 宇宙世紀0071…ギレン・ザビは「優生人類生存」を発表。
 ドズルの前に一人の男が現れた。
「なんだてめえは!?」
「軍人か、偉そうにヒゲなんぞはやしやがって」
「ドズルのお頭に因縁でもつけようってのかあ」
 ドズルの手下たちが男に襲いかかる。
 落ち着き払ったその男が踊りを舞うようにドズルの手下たちの間を動いた。
 どこをどうされたかわからぬうちにドズルの手下たちは当て身を喰らわされ昏倒した。
「ドズルさま…おむかえに参りました」
 その言葉の終わらぬうちにドズルが、その巨体に似合わぬ俊敏さで動いた。
ドズルの拳が男の顔面に!
しかし軽くいなされる。
だが、顔面への攻撃はフェイントである。
丸太のようなドズルの膝げりが水月(みぞおち)に決まる!!
 と、見えたがドズルの巨体が宙を舞った。
 〈不死身のドズル〉が初めて負けた。
「誰だ?てめぇは…」
「ランバ・ラルと申します。お父上に頼まれて参りました」
「親父か…自分で呼びにくればよかろうに」
 ここでランバ・ラル、がらりと伝法な口調に。
「どうでぇ、ちんぴらなんぞとジャれるのは止めにして、連邦相手に喧嘩しちゃあみねえか?」
 ランバ・ラルは、ジオン・ズム・ダイクンに仕えていた頃からデギン・ザビを油断ならない奴、と思っていた。
ジオン派が追放されて以来、冷や飯を食わされていたが、まさかデギン直々にドズルを家に連れ帰るよう依頼されるとは思ってもみなかった。
この仕事はデギンの側近どもには、まずつとまるまい、とランバ・ラルは思った。
くだらぬ官僚の集まり。
ザビ家に媚びを売る奴らに何ができよう。
ザビ家に頼らずに生きているドズルを好もしく思った。
「よりによって俺がデギンの不良息子を家に連れ戻す役をふられるとはな……デギンも人を見る目は意外にあるようだ」と、ランバ・ラルは腹心の部下クランプに語ったものである。
 後にランバ・ラルはドズルの信頼厚いがゆえにガルマの仇討ちを命ぜられ、ホワイトベースで壮絶な最期を遂げる。

ドズルはザビ家に帰った。
 ほとぼりを冷ますために、建設が始まったばかりのアクシズに行くことになった。
付き添ったランバ・ラルが目を見張ったことに、ドズルの部下を掌握する力は見事なものであった。
放蕩無頼の生活は、ドズルをすさませることなく、彼を彫啄したようである。
部下たちも〈ザビ家のドズル〉ではなく、ドズルそのものの豪放磊落(ごうほうらいらく)な気性と、顔に似合わぬやさしさを慕った。
 ランバ・ラルもあるいはドズルがデギンの跡目を継ぐ可能性があるのならば…ザビ家の下で働くのも悪くはない、とも思った。
 アクシズは後にネオ・ジオンの本拠地としてドズルの娘ミネバと、因縁浅からぬことになる。
 やがて、ドズルは宇宙攻撃軍の司令として、ソロモン要塞から地球連邦軍ににらみをきかせる。
 そして今、ドズルは妻と子を参謀ラコック大佐に託し、ソロモンから逃がそうとしていた。自らが盾となって。
「ゼナ…ミネバを頼む」
「はい…」
「ようやくに手にいれた我が子よ………わしに似て、かわいいのう(はーと)」

ミネバ自害。



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